特別寄稿コラム
なぜ、現在の「研修・教育動画」は、
作った後に『無限修正』に陥りやすいのか?
——「通信講座」と「企業研修動画」の適切な役割分担について
近年、企業のDX(デジタル化)の波に伴い、社内教育や研修動画の需要が急速に高まっています。大手通信企業が提供する優れた配信プラットフォームや、手軽な動画内製化(SaaS)ツールの普及により、「いつでも、どこでも、効率よく教育ができるインフラ」が整ったことは、日本の企業教育において素晴らしい進歩です。
しかし、これらの立派な「仕組み(インフラ)」を導入し、動画を自社で大量に揃えた企業様の間で、いま「次なる課題」が静かに持ち上がり始めています。
「インフラは整った。動画も低コストで大量に揃えた。しかし、肝心の社員の行動が、期待したほど変わっていない気がする」という、本質的な停滞です。
なぜ、効率的なシステムを導入した企業で、動画の形骸化や『無限修正』のループが起きてしまうのか。個人が知識を学ぶための「通信講座的な映像」と、組織の人間を動かすための「企業研修用の映像」の決定的な違いから、現代の発注の盲点を紐解きます。
1. 「知識型(通信講座)」は、オンラインの事前学習で終わらせるのが正解である
まず整理すべきなのは、通信講座や一般的なeラーニングが扱う「知識型(インプット)」の映像の特性です。
「法改正の知識」「マーケティングのフレームワーク」「システムの操作手順」といった内容は、すべて論理的な「知識・正解」です。これらを学ぶ目的は、個人の脳内に新しいデータを記憶させることであり、受講生が「学びたい」という明確な意思を持っていれば、講師がスライドを映して正論を読み上げるレクチャー型(通信講座形式)で十分に高い効果を発揮します。
そして、この「知識型の学習」こそ、大手通信会社のシステムや内製化動画を使って、各自が事前にやっておくべき領域です。
わざわざ全員が集まる研修の場で講義を聞かせるのではなく、事前のインプットをデジタルで効率化する。これは非常に正しいデジタルの活用法です。
2. 本番の「企業研修」で必要なのは、知識ではなく「気づき型・行動変容型」のドラマである
では、なぜ各自が事前学習を終えているにもかかわらず、本番の「企業研修」の場で動画が機能しなくなってしまうのか。それは、本番の研修の目的が、知識の暗記ではなく「現場での人間関係の修復、事故の防止、ハラスメントの根絶(行動変容)」だからです。
ここに、配信システム(インフラ)だけでは超えられない壁があります。「ハラスメントは厳禁です」「安全第一で作業しましょう」という正論(知識)は、現場の社員は全員、最初から知っています。知っているのに、なぜ現場でパワハラや事故が起きるのか。それは、人間の脳が「正論(ロジック)」を上から言われると、無意識に「自分は大丈夫だ」「関係ない」と防衛本能を働かせてしまうからです。
本番の研修動画(ケーススタディ)に求められるのは、正解を教えることではなく、人間のドロドロした感情、現場の理不尽な人間関係、リアルな失敗の葛藤を生々しく描いた「ドラマ・ドキュメンタリー」によって、受講生の心を動かすこと(気づき)です。
映像のドラマを通じて、「あ、これは昨日、自分が現場で部下に言ってしまったセリフだ……」「一歩間違えたら、自分がこの事故の加害者になっていたかもしれない」という、ヒヤリとするような恐怖と痛みを脳に「擬似体験」させること。この強烈な「気づき」があって初めて、人間は翌朝からの行動を自ら変える(行動変容)のです。
ここを設計(上流工程)しないまま、ただ素材を綺麗に繋ぎ合わせただけの動画を作ってしまうからこそ、完成品を見た現場の責任者から「これでは意味がない」とダメ出しされ、終わりのない『修正・撮り直しの無限ループ』が巻き起こってしまうのです。
